指示待ち社員とは、言われた仕事はきちんとこなすのに、言われるまでは動かない社員のことです。何かあるたびに「これでいいですか」と社長や上司に聞きに来て、判断を自分では下しません。

原因として、本人のやる気や性格がよく挙げられます。けれど経営者の方と話していると、社員が「迷ったときに何で決めればいいか」を会社から渡されていないケースをよく見かけます。決め手がないから、決められる人のところへ聞きに来ます。この記事では指示待ちが生まれる原因と、社員が自分で判断して動き出すまでの手順を、研究や白書のデータ、カルビーの事例と合わせて紹介します。

指示待ち社員とは、言われたことはできても迷う場面で動けない社員のこと

指示待ち社員は仕事ができない社員とは違います。決まった作業は正確にこなし、頼まれたことはきちんと終わらせます。問題はマニュアルにない場面で起きます。お客様から想定外の相談を受けたとき、二つのやり方のどちらも正しく見えるとき。そこで手が止まり、上司や社長の判断を待ちます。

お客様から値引きを頼まれ、「確認します」と言って社長に電話する

応じても断ってもお客様のためになりそう。自分で決めて、あとで責められたくない

会議で、気づいている改善を口にしない

言えば自分の仕事が増える。どうせ社長が最後に決め直す

終わった仕事を報告せず、次の指示が来るまで待つ

次に何をすれば喜ばれるのかが分からない

社員は判断の決め手がなくて動けない 指示を待つ社員の多くは手を抜いているわけではありません。どちらを選べばいいかの手がかりがないまま、責任だけを負うのを避けています。

これは一部の会社だけの話ではありません。米国の調査会社ギャラップの2026年の報告では、日本で仕事に熱意を持って取り組んでいる社員の割合は8%で、世界平均の20%、東アジア平均の18%を大きく下回っていました(Gallup「State of the Global Workplace 2026」。2023〜2025年の3年分を合わせた数字。調査会社の調査で、日本の回答者数は公表されていません)。

  • 世界平均20%
  • 東アジア平均18%
  • 日本8%
仕事に熱意を持って取り組む社員の割合 ギャラップ「State of the Global Workplace 2026」の数字をもとに作成。15歳以上の雇用されて働く人が対象で、対面か電話で調査しています。

指示待ち社員が生まれる原因は本人の性格より会社の仕組みにある

指示待ちは社員の性格だけで起きるものではありません。同じ人が、ある職場では自分から動き、別の職場では指示を待つことがあります。私が経営者の方と話していて見かける原因は、次の4つです。

原因社員の側で起きていること
判断の基準がない「お客様第一」のような言葉はあっても、二つのやり方のどちらを選ぶかは決められない。決め手がないので、決められる人に聞く
失敗すると責められる自分で決めてうまくいかなかったとき、判断の理由より結果を責められた経験がある。次からは決めずに聞くほうが安全になる
上司がすぐに答えを出す相談すると、上司が正解を教えてくれる。考えるより聞くほうが早く、間違いもない
追う数字がお客様と関係ない売上の達成率や作業の件数だけを追わされ、お客様のために動いても評価されない。言われた数字以外に手を出す理由がない

判断の基準がないことがいちばん根の深い原因

判断の基準がないことは、4つのうちほかの3つの土台になっています。基準がない会社では、失敗したかどうかを結果で判断するしかなく、上司が答えを出すしかなく、数字で評価するしかありません。反対に、迷ったときに「うちならこうする」と決められる基準があれば、社員は聞かなくても判断でき、上司はその判断が基準に沿っていたかどうかで評価できます。

私は会社の判断の基準をお客様から決めることをお勧めしています。「うちのお客様は、うちと関わってどうなりたいのか」です。お客様の話なので、社員は会社の都合に従わされている感覚を持たずに、自分から使えます。

「自分で考えて」と言うほど指示待ちは増える

指示待ちに悩む社長ほど、「いちいち聞かずに、自分で考えて」と言います。もっともな言葉ですし、社員を信じているからこそ出る言葉です。ただ、基準を渡さないまま「自分で考えて」と言われると、社員は正解のない問題を一人で解くことになります。考えた答えが社長の考えと違えば、やり直しになります。それが何度か続くと、社員は考える前に社長の考えを確かめに来るようになります。

社長 「自分で考えて」 社員が自分の 判断で動く 社長の考えと違い やり直しになる 次からは 先に社長に聞く 基準がないまま 任せると回る輪
基準のない「任せる」は指示待ちを強める 社長も社員も相手のためを思って動いています。二人が同じものを見て判断するための基準が抜けています。

社員は社長の言葉より、社長が最後に何で決めたかを見ています。売上が足りない月に社長が値引きを決めれば、社員は「最後は売上で決まる」と学びます。自分で考えてほしいなら、先に「うちは何を大事にして決めるのか」を渡しておく必要があります。

判断を任されると人が動くことは研究と白書のデータでも示されている

仕事の中でどれだけ自分で決められるか(自律性)と、仕事への満足や意欲の関係は、心理学で長く調べられてきました。米国のハンフリーらは、259の研究、のべ21万9,625人分のデータをまとめて分析し、自律性と職務満足・意欲・成果の関係を報告しています(Humphrey, Nahrgang & Morgeson, 2007, Journal of Applied Psychology)。

  • 仕事上の判断を自分で決められる ⇔ 仕事への満足とても強い7研究・9,008人
  • 仕事を自分の裁量で進められる ⇔ 仕事への満足強い175研究・75,364人
  • 仕事を自分の裁量で進められる ⇔ 仕事そのものへの意欲はっきりある48研究・20,835人
  • 働く時間を自分で決められる ⇔ 仕事への満足ほとんどない
時間の自由より判断を任されることが効く Humphrey ら(2007)の数値をもとに、結びつきの強さを当社が言葉に置き換えて作成しました。棒の長さは結びつきの強さの目安です。

目を引く結果があります。働く時間を自分で決められることは仕事への満足とほとんど結びついていなかったのに、仕事上の判断を自分で決められることは満足といちばん強く結びついていました。社員は休みやすさより、任されて決められることを求めていると読めます。ただし、これは「一緒に見られる」という結びつきを示すもので、任せれば必ず満足が上がるという因果まで示したものではありません。

権限委譲を進めた中小企業の約8割で自律的な社員が増えた

日本の中小企業のデータもあります。中小企業庁の『2023年版 中小企業白書』は、帝国データバンクが2022年11〜12月に行った調査(15,000社に送付、3,466社が回答)をもとに、経営者が権限委譲を進めた企業の約8割が「自律的な社員が増加した」と答えたと示しています。

中小企業白書2023 第2-1-68図。権限委譲を進めた企業で、自律的な社員が増加したに当てはまる19.9%、どちらかといえば当てはまる61.0%。社員からの改善提案が増加したに当てはまる15.1%、どちらかといえば当てはまる56.9%
経営者からの権限委譲を進めたことによる効果 「当てはまる」と「どちらかといえば当てはまる」を合わせると、自律的な社員が増えたのは80.9%、改善提案が増えたのは72.0%でした。権限委譲を進めていると答えた企業に聞いたもので、進めていない企業との比較ではありません。 出典: 中小企業庁『2023年版 中小企業白書』第2-1-68図

同じ白書は、権限委譲を進めたときに社員の動きに統一感を持たせるために行った工夫も聞いています。いちばん多かったのは「経営理念・ビジョンの共有」で75.8%でした。任せるだけでなく、何を大事にして判断するかをそろえている会社が多いことが分かります。

中小企業白書2023 第2-1-71図。権限委譲を進めた際、社員の動きに統一感を持たせるための工夫。経営理念・ビジョンの共有75.8%、人事評価の明確化と処遇への反映49.6%、挑戦・失敗を敢行・許容する文化の浸透40.6%、階層別の権限と責任の明確化37.3%、能力主義・業績主義による人材登用36.9%
任せるときに判断の向きをそろえる工夫 複数回答。工夫を「行った」と答えた916社に聞いたものです。 出典: 中小企業庁『2023年版 中小企業白書』第2-1-71図

カルビーは目的と権限を渡して口出しを我慢した

指示待ち社員の問題に経営トップが正面から取り組んだ例として、カルビーが知られています。2009年に会長兼CEOに就いた松本晃氏は、就任当初は指示待ち体質の社員が目立ったと振り返っています。松本氏は、創業家の経営者が優秀でトップダウンで会社を伸ばしてきたためだと見ていました。

松本氏は、従業員が育たないのはトップの責任だと結論づけています。新商品の開発やコスト削減など、成長に欠かせないテーマごとに28のプロジェクトをつくり、入社7〜8年目から20年のベテランまでをリーダーに据えて、メンバー選びも含めて任せました。いったん任せたら、プロジェクトが停滞してもトップはできるだけ口出しせず我慢する。ただし、1年以内に芽が出なければ打ち切る。この進め方で、指示待ちの体質を変えていったと書いています(日経ビジネスオンライン「“指示待ち社員”問題、カルビーはこう解決した」2015年10月20日、松本晃氏の連載。現在は Internet Archive で閲覧)。

この取り組みはいまも続いています。カルビーが2026年に公開した人的資本の報告書では人事の責任者が、トップダウン経営で成長してきた時期が長かったため「指示待ち型」の傾向が強く、自律型の組織に変えていく改革はまだ道半ばだと話しています。同じ報告書で社長は、2035年に向けた方針の中心にお客様を起点にすることを置いています(カルビー「Human Capital Report 2026」)。

大企業でも指示待ちは一度の施策では変わりません。目的と権限を渡し、任せた人の判断に口を出さず、その間もお客様から考えるという方向を示し続ける。社員数が少ない中小企業なら、この流れを社長自身の手で、もっと短い期間で回せます。

指示待ち社員の改善は判断の基準を渡してから任せる5つの手順で進める

先に判断の基準を渡し、そのあとで任せる。私はこの順番をお勧めしています。

  1. 1選び続けてくださるお客様が、うちと関わって手に入れたい姿を一文にする価格では勝っていないのに長く付き合ってくださる方を思い浮かべ、その方がおっしゃった言葉から書く
  2. 2迷ったときの問いにして、社員に渡す「この対応で、お客様はその姿に近づくか」。名刺サイズのカードにして持ち歩けるようにする
  3. 3任せる範囲を決めて伝える金額、相手、期限など、ここまでは社員が決めてよいという線を先に示す
  4. 4相談には答えず、問い返す「お客様のことを考えると、どうするのがいいと思う?」。答えを出すのは社員
  5. 5結果ではなく、判断が基準に沿っていたかを認めるうまくいかなくても、基準に沿って決めたことを評価する。追わせる数字もお客様の行動を数えるものに変える
基準を渡してから任せる 多くの会社では最初の2つが抜けています。基準がないまま3つめ以降に進むと、社員は「何で決めればいいのか」を社長に聞きに来ます。

判断の基準は持ち歩けるカードにする

基準は壁に貼るより、社員が迷ったその場で取り出せる形にしておくと使われます。名刺サイズのカードにして持ち歩く方法がよく使われ、判断の基準を短い言葉にまとめたものはクレドと呼ばれます。

リッツ・カールトンのクレドカード日本語版を広げて手に持った写真。上段にサービスの3ステップ、モットー、従業員への約束、クレド、下段にサービス・バリューズが並ぶ
リッツ・カールトンのクレドカード(日本語版) 従業員は迷ったときに立ち返る約束を折りたたみ式のカードにして持ち歩いています。下段の「サービス・バリューズ」には、お客様の問題は自分が引き受けてすぐに解決する、という項目もあります。 引用元: 株式会社ドモドモコーポレーション「リッツカールトンホテルが伝説のサービスを創りだす秘密はクレドにある」(2010年8月13日)

判断の基準を迷った場面で答えが出る短い言葉にしたいときは、リッツ・カールトンの例で見るクレドの作り方をご覧ください。

任せる範囲は金額や相手で線を引く

「全部任せる」と言われると、かえって社員は動けません。どこまで自分で決めてよいのかが分からないからです。「お客様1件につき〇万円までの値引きや無償対応は、自分で決めてよい」「既存のお客様への提案は、事前の相談なしで出してよい」のように、線を引いて伝えてください。線の内側では社長に聞かなくてよいと分かると、社員は安心して判断できます。線の位置は、経験に合わせて変えます。入ったばかりの社員には狭い範囲から任せ、基準に沿って判断できたら広げていきます。任せた範囲で起きた結果の責任は社長が持ち、社員には基準に沿って判断することだけをお願いする。この分担を先に伝えておくと、社員は失敗を恐れずに決められます。

相談されたら、答える前に一度問い返す

社員から相談を受けると、社長はつい答えを出したくなります。経験があるぶん、答えがすぐに分かるからです。そこで一度だけ、「お客様のことを考えると、どうするのがいいと思う?」と問い返してください。社員の答えが基準に沿っていれば、そのまま任せます。ずれていたら、基準のどこを見落としたかを一緒に確かめます。これを何度か繰り返すと、社員は相談に来る前に自分で基準に照らして考えるようになります。

お客様から逆算して社員の判断の基準をつくり、現場に根づかせるまでの全体を、セミナー動画にまとめています。スキマ時間でご覧いただけます。

セミナー動画を見る

自分で動き出した社員からは頼んでいない改善が出てくる

判断の基準が社内にあると、社員は指示を待たずに動き始めます。私の会社で起きたことを2つ紹介します。

ひとつは時給1,200円で入った業界未経験のスタッフのことです。ある月、いつもは15日にできあがる月次決算が、5日に私の机の上にありました。誰にも頼まれていないのに、本人が集計を自動化していたのです。理由を聞くと「毎月同じ作業だったので」という答えでした。

もうひとつは私が2週間ほど連絡の取れない状態になったときのことです。スタッフが自分たちで判断して決め、別の発注先を探してくれていました。

小さな店のカウンターで、お客様のための贈り物を丁寧に包むスタッフの手元
誰に言われなくてもお客様のために手が動く 判断の基準がお客様の話になっていると、社員は自分の仕事の先にいる人を思い浮かべて動けます。

やる気とは、朝礼で大きな声を出すことではありません。社長の知らないところで、頼んでいない改善が起きていることです。指示待ちが減ると、社長に届く言葉は「これでいいですか」から「こうしました」に変わります。

改善の途中で社長と管理職が避けたい3つのこと

研修で社員を変えようとしない

指示待ちを直そうとして、主体性を高める研修を受けさせる会社は少なくありません。けれど、人は簡単には変わりません。変えられるのは社員が働く環境のほうです。私は教育を義務にしないことをお勧めしています。学校ではないので、学びはやりたい人へのご褒美として用意する。そのかわり、何に集中すればいいかがはっきりした環境を整えます。見る範囲が絞られている人ほど、目の前の仕事に夢中になれます。

任せたあとに社長が基準を曲げない

今月の売上が足りないからと、一度でも社長が基準に合わない指示を出すと、社員はその一回で「基準より社長の都合が上なんだ」と受け取ります。そうなると、また社長の顔色をうかがって判断するようになります。基準は社長が守っている姿を見せたときにだけ現場で使われます。

結果だけで評価しない

社員が基準に沿って判断し、それでもうまくいかないことはあります。そこで結果だけを責めると、社員は次から判断しなくなります。評価するのは判断の理由が基準に沿っていたかどうかです。追ってもらう数字も売上の達成率より、お客様がどう動いたかを数えるものにすると、社員は数字のために基準を曲げずに済みます。社員に追ってもらう数字をお客様の行動から決め直したいときは、人が離れないKPIの決め方と、明日の会議で使える3つの問いをご覧ください。