BX経営(ブランドエクスペリエンス経営)とは、顧客がその会社と関わって手に入れる「なりたい自分」を経営の判断の基準に置き、社員一人ひとりが「うちならどうするか」で動ける組織をつくる経営の考え方です。i-SHOT株式会社が提唱し、中小企業の経営者の方と取り組んでいます。

BX経営では「この会社は顧客に何を届けるためにあるのか」を社員と共有します。そうすると、マニュアルにない場面でも社員が自分で判断できるようになります。

BX経営とは、顧客の「なりたい自分」を会社の判断の基準にする経営

BXは Brand Experience(ブランドエクスペリエンス)の略で、顧客がブランドに触れたときに受け取る感覚・感情・思考・行動のことです。BXそのものの意味とCXとの違いは、Apple・スターバックスなどの事例で見るブランドエクスペリエンスでご覧ください。

そもそも、ブランドエクスペリエンスとは? ブランドエクスペリエンス(BX)とは?CXとの違いを事例で解説 顧客の中に生まれる4つの反応、CX・UXとの違い、Apple・スターバックスなどの事例、論文の調査データまで。 記事を読む →

BX経営はこのBXを広告やお店の中だけでなく、会社の経営の真ん中に置きます。顧客は商品そのものより、それを使っている自分を手に入れるためにお金を払っています。その「なりたい自分」を一文で決め、すべての部門の判断をそこにそろえます。

顧客の 「なりたい自分」 判断の基準 社員の行動 顧客の反応 と言葉 BX経営 顧客から始まり、 顧客に返る
顧客から逆算して社員の判断までつなぐ 顧客の「なりたい自分」を判断の基準にし、社員が動き、返ってきた顧客の反応や言葉で理解を深めていく。この輪が回り続けるのがBX経営です。

ビジネストランスフォーメーション(BX)とは別のもの

「BX経営」で検索すると、ビジネストランスフォーメーション(Business Transformation、事業やビジネスモデルの変革)の記事が多く出てきます。略語は同じですが、別のものです。BX経営のBXはブランドエクスペリエンス(ブランド体験)を指します。

BX経営はブランディングと違い社員の判断を整える

ブランディングはロゴやホームページ、広告など、会社が外に向けて発信するものを整える仕事です。BX経営は社員一人ひとりの判断を整えます。電話の応対、見積もりの出し方、クレームへの向き合い方。顧客はこうした毎日の場面で会社を判断するからです。社員の判断がそろえば、見た目のブランディングはあとからついてきます。

理念を掲げても判断の基準になっていなければ社員は動かない

多くの会社が「お客様第一」を掲げ、朝礼で唱え、壁に貼っています。それでも現場は迷います。「お客様第一」は判断の基準として使えないからです。

「お客様第一」で考える

  1. 値引きすれば、目の前のお客様は喜ぶ
  2. でも、品質や対応が落ちるかもしれない
  3. どちらもお客様のため。決められず、社長に電話する

「うちならどうするか」で考える

  1. うちのお客様が手に入れたいのは「安心して任せられる自分」
  2. 値引きより、約束どおりの品質を守るほうがその自分に近づく
  3. 現場で決められる
値引きを頼まれたときに現場は何で決めるか 右の「安心して任せられる自分」は一例です。何を基準にするかは、会社ごとに顧客から見つけます。

社員がお客様のために動きたくないわけではありません。どちらもお客様のためになりそうな選択肢を前にして、決め手がないだけです。決め手がないから、社長に聞きに来ます。社長の電話が鳴り続けるのは社員の能力の問題ではなく、判断の基準が会社の中にないからです。

反対に、「うちのお客様は、うちと関わってどんな自分になりたいのか」がはっきりしていれば、答えは1つに絞られます。社長に聞かなくても社員が自分で決められるようになります。

BX経営を実行すると、会社はこう変わる

いちばん大きく変わるのは社内で判断が集まる場所です。これまで社長1人に集まっていた「これでいいですか?」が、社員一人ひとりの手元で片づくようになります。

これまで:全員が社長に聞きに行く

社長 社員 社員 社員 社員 社員 社員 ???

BX経営:全員が同じ基準を見て動く

顧客のなりたい自分 社員 社員 社員 社員 社長 社員
判断が集まる場所が社長から「顧客」に移る 右では、社長も社員の1人として、同じ基準を見て動きます。社長の仕事は、その基準を守り、語り続けることです。

社長への質問が「これでいいですか?」から「こうしました」に変わる

判断の基準が社内にあると、社員が社長に持ってくる話の中身が変わります。許可を求める相談から、自分で決めたことの報告へ。社長は報告を聞いて基準からずれていないかを確かめるだけでよくなります。

社長への声:「社長、これでいいですか?」

「社長、うちならこうだと思って、こうしました」

会議の話題:売上の達成率と、足りない理由

顧客がどんな言葉を口にしたか、どの場面で喜ばれたか

無理な要望:断ってよいか分からず、抱え込む

「うちの顧客のためにならない」と理由を言って、断れる

新人の育成:マニュアルと先輩のやり方を覚える

「なぜそうするのか」を顧客の話で理解し、応用できる

同じ会社の中で交わされる言葉が変わる 変化は、まず社内の言葉に表れます。数字に表れるのは、そのあとです。

社員:頼んでいない改善が現場から出てくる

判断の基準が共有されると、社員は指示を待たずに動き始めます。i-SHOT 自身の会社でもこんなことがありました。時給1,200円で入った業界未経験のスタッフが、誰にも頼まれていないのに月次決算の集計を自動化し、いつもは15日にできあがる決算が5日に社長の机の上にあったのです。理由を聞くと「毎月同じ作業だったので」という答えでした。

やる気とは、朝礼で大きな声を出すことではありません。社長の知らないところで、頼んでいない改善が起きていることです。

会議:話題が売上の数字から顧客の場面に変わる

社員に追ってもらう数字が顧客の行動を数えるものに変わると、会議で交わされる話も変わります。「今月は達成率が何%で、足りないのはなぜか」から、「このお客様が、こんなことをおっしゃっていた」へ。顧客の話をする時間が増えるほど、社員は自分の仕事が誰の役に立っているかを実感できます。業績の数字は社長と幹部がしっかり見ます。

顧客:価格ではなく「らしさ」で選び続ける

どの社員が対応しても同じ「らしさ」を感じられると、顧客はほかの会社と比べる理由がなくなります。値引き合戦から抜け出し、紹介やリピートで選ばれる会社に近づきます。

採用と育成:合う人が集まり、教え込まなくても育つ

「うちの顧客は、うちと関わってどんな自分になりたいのか」を社長が自分の言葉で語れるようになると、採用面接で話す内容が変わります。条件や待遇より先に、会社が何のためにあるかを伝えられるので、それに共鳴する人が集まりやすくなります。

育成も変わります。人は簡単には変わりませんが、環境は変えられます。何に集中すればいいかがはっきりした環境では、社員は迷わずに目の前の顧客に向き合えます。教え込むより集中できる環境を整えることが、管理職の仕事になります。

社長:現場に立たなくても会社が回る

社員が「うちならどうするか」で判断できるようになると、社長が答えなければならない質問が減っていきます。i-SHOT の代表の原田は自社でこの形をつくり、1年間現場に立たずに5年連続で売上を伸ばしました。社長の時間は現場の確認から、会社の次の一手を考えることに移ります。

戻りかけたら基準に戻す

判断の基準を決めたからといって、翌日から全員の動きが変わるわけではありません。忙しい時期や業績が気になる時期には、つい売上の話に戻りたくなります。社員にも慣れたやり方を手放す怖さがあります。

戻りかけたら早めに気づき、また顧客の話に戻します。社長が会議の最初に顧客の場面を話す、判断に迷った社員と一緒に「うちならどうするか」を考える。こうした小さなくり返しが、基準を会社に根づかせます。

BX経営は3か月で見つける・言葉にする・現場に組み込むの順に進める

i-SHOT ではBX経営を3か月(90日)のプログラムで進めます。最初に、会社の中にすでにあるものを見つけます。

時期やること
1か月目
見つける
これまで大切にしてきたものを棚卸しし、顧客の1日を描きます。そのうえで、顧客が本当に買っているもの、なりたい自分、そうなれない理由(思い込み)を特定します
2か月目
言葉にする
顧客の物語を書き、自社の良さを顧客の言葉で言い直します。特定の顧客で小さく試して手応えを確かめ、会社の判断の基準を一文にまとめます
3か月目
現場に組み込む
幹部に顧客の物語を共有し、部門ごとの判断の基準をつくります。社長自身が社員総会や採用面接で顧客の物語を語れるようにします

3か月のあいだに社長と幹部に起きる変化

  1. 1か月目これまで大切にしてきたものが言葉になる。「顧客は〇〇な自分を手に入れている」が一文で言える
  2. 2か月目特定の顧客で試し、「合っている」という手応えを得る。迷ったときに立ち返る会社の基準が決まる
  3. 3か月目幹部が「社長に聞かなくても判断できる」と実感する。現場で使える部門ごとの判断シートができる
  4. その後社長が社員総会や採用面接で、顧客の物語を自分の言葉で語れる
まず社長と幹部が変わる i-SHOT のプログラムで、各段階の終わりに目指している状態です。
i-SHOTのBXカード。表には会社の使命と目指す姿、裏には顧客にスポットライトを当て続けるための3つの約束が書かれている
お客様の物語をいつでも開けるカードにする i-SHOT自身のBXカードです。カードにスマホをかざすと、お客様を主人公にした会社の物語のページが開きます。社員が迷ったときに、お客様の顔を思い浮かべて判断できるようにするためのカードです。

答えは社長の頭と顧客の言葉の中にすでにある

同じような商品を扱う会社がほかにもあるのに、わざわざ選び続けてくださる顧客がいる。辞めずに働き続けてくれている社員がいる。そこにはすでにその会社だけの理由があります。会社の中にいる人ほど当たり前になって見えなくなっているだけで、新しくつくる必要はありません。1か月目はそれを掘り起こす時間です。言葉にするのが苦手な社長でも、対話を重ねながら一緒に掘り起こせば進められます。

社員には決まりより「部門ごとの判断の問い」を渡す

3か月目につくる部門ごとの判断の基準は、マニュアルとは形が違います。部門ごとに次の4つを1枚にまとめます。

部門ごとの判断シートに書くこと

  • 判断迷ったときに立ち返る問い。「この対応で、顧客はなりたい自分に近づくか」
  • 行動その問いから導いた、この部門ならではの動き方
  • 見る追うべき数字。顧客の行動を数えるもの
  • 見ない見なくていい数字。追うと顧客のなりたい自分を壊してしまうもの
「見なくていい数字」を部門ごとに書く 見なくていい数字を書けない部門は、顧客より社内の都合で動いている可能性があります。

たとえば美容院なら、施術の回転を上げようとすると、ゆったりくつろぎたい顧客の時間が削られます。こうした数字を「見なくていい」とはっきり書いておくと、社員は安心して目の前の顧客に集中できます。

数字は顧客の行動から決め直す

判断の基準が決まると、社員に追ってもらう数字も変わります。数えるのは「顧客がその自分に近づいているなら、現場でどんな行動をしているか」です。業績の数字はこれまでどおり経営者がしっかり見ます。社員に追ってもらう数字をお客様の行動から決め直したいときは、人が離れないKPIの決め方と、明日の会議で使える3つの問いをご覧ください。

BX経営の考え方と3か月の進め方の全体を、セミナー動画にまとめています。スキマ時間でご覧いただけます。

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BX経営は理念づくり・評価制度・研修と違い顧客から出発する

社員に自分から動いてほしいとき、多くの会社は理念やクレドづくり、評価制度の見直し、研修に取り組みます。どれも大切な取り組みですが、出発点が違います。

ばらばらに始める

会社の思い理念・クレド社員の行動評価制度社員の能力研修社員顧客?

顧客から始める(BX経営)

顧客の「なりたい自分」理念・クレド評価制度研修社員顧客
同じ取り組みでも出発点で行き先が変わる 左は、それぞれの取り組みが会社の中から始まり、顧客とつながっていません。右は、顧客の「なりたい自分」から理念・評価制度・研修をそろえ、社員を通して顧客に返ります。
取り組み出発点と、つまずきやすいところ
理念・クレドづくり会社の思いから始める。言葉は立派になるが、日々の判断に使える形になっていないと、壁に貼られたままになる
評価制度の見直し社員の行動から始める。制度を整えるほど「評価のための行動」が増え、顧客が置き去りになることがある
研修社員の能力から始める。学んだことを現場で使う場面がないと、研修の日だけで終わる
BX経営顧客の「なりたい自分」から始める。理念も評価も研修も、その基準にそろえて組み直す

BX経営はこれらの取り組みを置き換えるものではありません。理念も評価制度も研修も、顧客という同じ出発点にそろえることで、初めて互いにつながります。評価制度を整えるほど社内が冷えていった経緯は、原田が人事制度づくりでつまずいた話でご覧ください。

理念を、社員が迷ったときに取り出せる短い言葉にしたいときは、迷ったときに答えが出るクレドの作り方をご覧ください。

BX経営が合う会社、合わない会社

合う会社こんな状態
社員の判断が
ばらばら
任せたいのに、社員によって対応が違う。結局、自分が確認しないと回らない
理念が
伝わっていない
理念やクレドはあるのに、日々の判断に使われていない
選び続けて
くれる顧客がいる
価格では勝っていないのに、長く付き合ってくださる顧客がいる。その理由をうまく言葉にできていない
会社を
引き継ぐ・任せたい
自分がいなくなっても、会社らしさが残る形をつくりたい

会社の大きさは問いません。社長の考えが社員に届きやすく顧客との距離が近い分、中小企業のほうが判断の基準を早くそろえられます。

反対に、短期間で売上の数字だけを上げたい会社には向きません。BX経営では、数字は顧客に喜んでいただいた結果として、あとからついてくるものとして扱います。また、すべての顧客に好かれようとする会社にも向きません。「なりたい自分」をはっきりさせることは、それを求めない方には合わないと伝えることでもあるからです。

BX経営を提唱するi-SHOT株式会社の原田悠暉

i-SHOT株式会社 代表取締役の原田悠暉。オフィスのソファに座って笑っている
i-SHOT株式会社代表取締役 原田悠暉

原田は2017年からWebマーケティング支援に携わり、美容クリニックの予約を月523名、法律事務所の相談予約を月63件まで伸ばすなど、「気になっているけど、まだ踏み出せない」人が動くきっかけをつくってきました。

自社の経営では、仕組み化を進めるほど人が辞めていく失敗を経験しています。マニュアルとKPIを整えても、「何のためにこの仕事をするのか」がなければ人は残らない。顧客に何を届ける会社なのかを社員と共有し直してから、社員が自分で動き始め、原田が1年間現場に立たなくても売上が伸び続けました。その経験をほかの会社でも再現できる形にまとめたのが、BX経営です。詳しい経緯は、代表プロフィールでご覧いただけます。

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