ブランドエクスペリエンス(Brand Experience、略してBX)とは、広告・店舗・商品・接客・アフターサービスなど、ブランドに触れたときに顧客の中に生まれる感覚・感情・思考・行動のことです。日本語では「ブランド体験」と呼ばれます。

CX(カスタマーエクスペリエンス)が「どの接点でも満足していただけるか」を見るのに対し、ブランドエクスペリエンスは「どの接点でも、そのブランドらしさが伝わっているか」を見ます。満足していただけても、同じ満足を他社が出せるなら、顧客は次に他社を選ぶかもしれません。選ばれ続けるかどうかはブランドエクスペリエンスで決まります。

ブランドエクスペリエンスとは、ブランドが顧客の中に引き起こす4つの反応

ブランドエクスペリエンスは、ブランドのデザイン・パッケージ・広告・売り場が顧客の中に引き起こす反応の総体です。反応は感覚・感情・知性・行動の4つに分けられます。

ブランドに触れたとき、顧客の中で起きる反応

  • 感覚目・耳・手ざわり・香り・味で受け取るもの。箱を開けたときの手ざわり、店に流れている音楽(Sensory)
  • 感情気持ちが動くこと。店に入ったとたんに落ち着く、商品を手にして誇らしくなる(Affective)
  • 知性考えさせられること、好奇心が動くこと。「なぜこの形なのだろう」と調べたくなる(Intellectual)
  • 行動体が動くこと、ふだんの行動が変わること。スニーカーを履いたら、走りに出たくなる(Behavioral)
ブランドエクスペリエンスは顧客の中で起きる4つの反応 Brakus, Schmitt & Zarantonello(2009)の4つの次元をもとに作成。例は i-SHOT によるものです。

つまり、会社が用意したものの出来より、顧客が何を感じ、どう動いたかが決め手になります。

コロンビア大学の研究チームが6つの調査で測り方まで確かめた

この定義はコロンビア大学のバーンド・シュミットらが2009年に米国の学術誌 Journal of Marketing に発表した論文によるものです(Brakus, Schmitt & Zarantonello, 2009)。論文はブランドエクスペリエンスを測る質問を6つの調査で絞り込み、確かめています。

調査対象何をして、何が分かったか
予備調査大学院生25人体験の強いブランドと弱いブランドを挙げて説明してもらった。強いブランドには Apple・BMW・スターバックス・ディズニーなどが挙がり、説明は感覚・感情・思考・行動にまたがっていた
調査1学生30人文献から131の質問をつくり、専門家と消費者の確認を経て、ブランドエクスペリエンスを表しているかを7段階で評価してもらい、83問に絞った
調査2学生267人21ブランドについて83問に答えてもらい、統計で分析した。反応は4つのまとまりに分かれた
調査3学生193人質問を12問(4つの反応ごとに3問)に絞り、別の30ブランドで試した。4つに分かれる形がいちばんデータに合っていた
調査4街頭の消費者150人学生以外でも同じ形になるかを確かめた。2週間後に72人が同じ質問に答え直し、答えが安定していることも確かめた
調査5144人ブランドへの関与・愛着・喜びといった既存の尺度と、ブランドエクスペリエンスが別のものであることを確かめた
調査6学生209人ブランド体験・ブランドの人柄・満足・ロイヤルティを同時に測り、影響の大きさを比べた

ロイヤルティへの影響はブランドの「人柄」より大きかった

調査6では、ブランドエクスペリエンスが満足とロイヤルティ(使い続けたい気持ち)にどれだけ効くかを、ブランドの「人柄」(誠実・刺激的・有能といったブランドパーソナリティ)と比べています。

結果を見ると、ブランドに触れて受け取った反応のほうが、ブランドの人柄よりも使い続けたい気持ちを強く高めていました(論文の数値では、影響の大きさが0.69対0.53)。顧客がブランドに触れて受け取った反応はそれ自体で使い続ける理由になり、さらに「このブランドは、こういう人だ」という像を通しても次の購入を後押ししていました。

一方で、論文は限界も書いています。この尺度が測るのは反応の強さで、その体験が良かったか悪かったかは測れません。また、体験はあとから思い出してもらう形で測っています。

「つながり」の反応は感情と同じまとまりに入った

シュミットは1999年の著書『Experiential Marketing』(邦訳『経験価値マーケティング』)で、顧客の経験を5つに分けていました。SENSE(感覚)、FEEL(情緒)、THINK(知性)、ACT(行動)、RELATE(関係)です。RELATE はブランドを通して誰かとつながる経験、ある集まりの一員になる経験です。

2009年の論文でもはじめは「つながり」を5つ目の反応として想定していました。ところが調査2で、つながりの質問は感情の質問と同じまとまりに入りました。人とのつながりは強い気持ちの動きとして受け取られている、ということです。同じバイクに乗る仲間と走りに出る、常連として顔を覚えてもらう。こうした場面を設計するときは、感情の反応として扱います。

BXはビジネストランスフォーメーションとは別の言葉

同じ「BX」という略語が、Business Transformation(ビジネス変革)の意味でも使われます。マーケティングやブランドの話で「BX」と言うときは、Brand Experience(ブランドエクスペリエンス)を指すのが一般的です。

ブランドエクスペリエンスはCX・UXと違い「らしさ」をそろえる

言葉何をそろえるか
UXユーザーエクスペリエンス製品やサービスを迷わず心地よく使えること範囲:使う場面
CXカスタマーエクスペリエンス知る・買う・使う・問い合わせる、どの接点でも満足していただけること範囲:顧客との接点の全体
ブランディング会社や商品がどう覚えられ、どう見られたいか(名前・ロゴ・言葉・デザイン)範囲:会社が発信するもの
ブランドエクスペリエンスBXどの接点でも顧客が同じ「このブランドらしさ」を感じられること範囲:顧客との接点の全体と、それを支える社内の判断

UXは「使う場面」、ブランドエクスペリエンスは使う前から使った後まで

UXは国際規格 ISO 9241-210 で、製品やシステム、サービスを使うとき、または使うことを想定したときに生じる人の知覚と反応と定義されています。中心にあるのは「使う」場面です。

一方、ブランドエクスペリエンスは使う前から始まっています。広告を見て、ホームページを開き、電話で問い合わせたときの第一声まで含みます。使いやすいアプリでも、問い合わせへの返事がそっけなければ、顧客の中に残る印象はそちらに引っ張られます。

CXは「満足」をそろえ、ブランドエクスペリエンスは「らしさ」をそろえる

CXも顧客が会社と関わるすべての場面を対象にします。範囲はブランドエクスペリエンスとほとんど重なります。違いは何をそろえるかにあります。

満足をそろえる(CX)

  1. どの接点でも不満がない
  2. 「良い会社だった」と思っていただける
  3. 同じ満足を出せる他社とは比べられる

らしさをそろえる(BX)

  1. どの接点でも同じ「このブランドらしさ」を感じる
  2. 「この会社でなければ」と思っていただける
  3. 他社と比べずに選んでいただける
満足していただいても選ばれる理由にはならない CXとブランドエクスペリエンスは対立しません。満足は土台で、その上に「らしさ」が乗ります。

カスタマージャーニーの全タッチポイントを貫く1本の線

カスタマージャーニーマップを描くと、顧客が通るタッチポイントが時間の順に並びます。CXの改善は点ごとの不満を減らす作業になりがちです。

ブランドエクスペリエンスの見方では、その点と点を1本の線でつなぎます。広告で「このブランドとなら、こうなれそうだ」と感じた期待が、ホームページ、問い合わせ、商談、使い始め、困ったときの対応と進むたびに強くなっているか。どこか1つの点で別の印象を与えると、線はそこで切れます。

CX:点ごとに満足を整える広告HP問合せ商談使う困るBX:点と点を1本の線でつなぐ広告HP問合せ商談使う困る
点を整えるCXと線でつなぐブランドエクスペリエンス CXはタッチポイントごとの不満を減らします。ブランドエクスペリエンスでは、広告で生まれた期待がどの接点を通っても途切れずに強くなっているかを見ます。

ブランディングは会社が発信するもの、ブランドエクスペリエンスは顧客が受け取るもの

ブランディングは、社名・ロゴ・スローガン・広告のトーンなど、会社が「こう見られたい」と発信するものを整える仕事です。ブランドエクスペリエンスは顧客が実際に何を受け取ったかで決まります。ロゴや広告がどれほど洗練されていても、電話の応対や請求書の書き方で印象が崩れれば、顧客の中に残るのは後者です。

CXで不満を直す前に「なりたい自分」を決めておく

CXとブランドエクスペリエンスのどちらから始めるか迷ったら、顧客が不満を感じている接点があるなら、まずそこを直すのが先です(CX)。ただ、何をそろえるかを決めずに直していくと、直した接点どうしがばらばらの方向を向きます。顧客が手に入れたい「なりたい自分」だけは、最初に決めておくことをお勧めします。

なお、「BXデザイナー」は、ブランドに触れる場面全体を顧客にとって一貫したものに設計する職種を指すことが多く、製品の使い勝手を設計するUXデザイナーより扱う範囲が広くなります。

機能と価格だけでは選ばれなくなりブランドエクスペリエンスが重視され始めた

品質の高い商品が当たり前になると、性能の差はすぐに追いつかれ、値下げは体力の勝負になります。その中で「同じようなものなら、あの会社から買いたい」と思っていただける理由として、ブランドエクスペリエンスが注目されています。

経済の主役は「モノ」から「経験」に移った

1998年、B・ジョセフ・パインとジェームス・H・ギルモアは Harvard Business Review に「Welcome to the Experience Economy」を発表しました。経済の主役は素材から製品へ、製品からサービスへと移り、その次に来るのが「経験」だという主張です。例には子どもの誕生日ケーキが挙げられました。

数十セント素材1〜2ドル商品10〜15ドルサービス100ドル以上経験
  1. 素材小麦粉や砂糖、卵を買って、家で一から焼く。材料費は数十セント
  2. 商品ケーキミックスを買って焼く。1〜2ドル
  3. サービスケーキ屋さんに注文する。10〜15ドル
  4. 経験誕生日会そのものを専門の会社に任せる。100ドル以上。ケーキが無料で付いてくることもある
同じ誕生日のお祝いでも顧客が払うものが違う Pine & Gilmore(1998)の例をもとに作成。金額は論文発表当時の米国の目安です。

4段目の顧客は、ケーキの代金を払っているわけではありません。子どもにとって忘れられない1日と、その1日をつくってあげられた親としての自分にお金を払っています。

12か国1万5,000人の調査では73%が購入の決め手に体験を挙げた

コンサルティング会社の PwC は、米国4,000人とほかの11か国の11,000人、合わせて1万5,000人の消費者にオンライン調査と対面のインタビューを行いました(Future of Customer Experience Survey 2017/18、報告書「Experience is everything」)。

73%が購入の決め手として体験を挙げ、良い体験のためなら最大16%高い値段を払うと答えています。反対に、好きなブランドでも嫌な思いを1度しただけで離れると答えた人が32%いました。調査会社の調査なので、細かな割合より向きに目を向けてください。顧客は同じ商品でも、どこで、誰から、どんな気持ちで買うかによって払う金額を変えています。

ブランドエクスペリエンスの事例:Apple・スターバックス・レッドブル・ディズニー・エルメス

どの事例も日々の接点を同じ方向にそろえ続けた結果です。

Apple:「自分にも生み出せる」を触れるたびに確かめられる

1997年、Apple は「Think different.」という広告を打ち出しました。画面に映るのは常識を覆してきた人々の姿で、製品はほとんど出てきません。語りかけたのは「常識にとらわれない側に立つ自分」でした。

その約束は広告の中で終わっていません。箱を開けた瞬間の手ざわり、説明書を読まなくても動かせる操作、誰でも触れて試せる店。顧客は触れるたびに「自分にも使いこなせる」と確かめられます。

Apple の広告 Think different. バス停の看板に、月面の宇宙飛行士の写真と Think different. の言葉、リンゴのマークだけが置かれている
製品を映さない「Think different.」 月面の宇宙飛行士の写真に、言葉とリンゴのマークだけを置いた屋外広告です。製品も性能も何も写っていません。 引用元: Apple「Think different.」広告(1997年)

スターバックス:家でも職場でもない「3つ目の場所」

スターバックスは店を家でも職場でもない「サードプレイス」として位置づけてきました。社会学者のレイ・オルデンバーグが提唱した考え方です。ゆったりした席、長く居ても気にならない空気、名前や好みを覚えてくれるスタッフ。売っているのはコーヒーですが、顧客が確かめているのは自分のための時間を持てる自分です。

カフェの窓際で、湯気の立つカップを両手で包む人の手元
顧客はコーヒーの代金以上のものを払っている この席で過ごす時間と、この時間を持てる自分に、顧客はお金を払っています。

レッドブル:限界を超える場面にいつもいる

レッドブルは「翼をさずける」を掲げ、エクストリームスポーツや冒険の場面に関わってきました。象徴的なのは2012年の「Red Bull Stratos」です。高度約39キロの成層圏から人が飛び降りる挑戦を支え、その様子は世界中に中継されました。飲み物の成分を語るより先に、限界に挑む人の姿を見せ続けています。

成層圏のカプセルから地球に向かって飛び降りた直後のフェリックス・バウムガルトナー
成層圏から飛び降りた直後 2012年10月の「Red Bull Stratos」で、カプセルから飛び出したフェリックス・バウムガルトナー氏です。この挑戦を支えたのがレッドブルで、写真には缶も成分も写っていません。 引用元: レッドブル「【Red Bull Stratos 10周年】フェリックス・バウムガルトナーが振り返る成層圏ダイブ」

ディズニー:働く人は「キャスト」、来園者は「ゲスト」

ディズニーのテーマパークでは、働く人を「キャスト」、来園者を「ゲスト」と呼びます。清掃をする人も案内をする人も同じ物語の中にいるので、来園者はどこにいても物語の主人公でいられます。言葉の選び方が接点をそろえる仕組みになっている例です。

エルメス:時間をかけて人の手で仕上げる

エルメスのバッグは熟練の職人が長い時間をかけて手で仕上げることで知られています。どれだけ求められても、急いで数を増やすことはしません。すぐには手に入らないことさえ、良いものを良いと分かる自分を確かめる証拠になっています。

Apple:説明書なしで動かせる操作、誰でも試せる店

常識にとらわれず、何かを生み出せる自分

スターバックス:長く居られる席、好みを覚えているスタッフ

自分のための時間を持てる自分

レッドブル:限界に挑む人の姿を見せ続けるイベント

限界を超える勇気のある自分

エルメス:人の手で時間をかけて仕上げる、すぐには手に入らない品

良いものを良いと分かり、次の世代に手渡せる自分

接点の一つひとつが「なりたい自分」の証拠になる 右側は i-SHOT の見立てです。どのブランドも演出を足すより、日々の接点を同じ方向にそろえています。

世界のブランドが顧客にどんな自分を手に入れさせているかは、Apple・ナイキ・レッドブルなどを物語にした一覧でご覧ください。

ブランドエクスペリエンスに取り組むと、顧客と社員の両方が変わる

顧客は他社と比べずに選び続けるようになる

先ほどの論文の調査6では、ブランドに触れて受け取った反応のほうが、ブランドの人柄よりも使い続けたい気持ちを強く高めていました。PwC の調査でも、良い体験には最大16%の上乗せを払うという答えが出ています。どの接点でも同じらしさを感じた顧客は、価格の比べ合いから外れていきます。

社員の判断がそろい、接点ごとのばらつきが減る

接点の多くには社員がいます。電話を取る人、見積もりを書く人、商品を届ける人。「顧客にどんな自分になっていただくか」が決まっていると、マニュアルにない場面でも「うちならこうする」と判断できます。顧客から見ると、誰が対応しても同じ会社に見えるようになります。

マーケティングの成果が途中で漏れにくくなる

広告から問い合わせ、商談、契約までの流れは、段ごとの割合の掛け算で進みます。広告でどれだけ期待を高めても、その先の段で話や声が変われば、顧客はそこで離れます。ブランドエクスペリエンスの見方で流れ全体をそろえると、広告の成果が後ろの段で漏れにくくなります。

顧客は商品を通して「なりたい自分」を買っている

ブランド体験を設計するときは、最初に「顧客は、うちから何を買っているのか」という問いに答えを出します。商品の名前を答えたくなりますが、顧客が手に入れているのはそれを使っている自分です。

ブランド売っているもの 顧客が手に入れている「なりたい自分」
AppleMac、iPhone 常識にとらわれず、何かを生み出せる自分
スターバックスコーヒー 自分のための時間を持てる、心に余裕のある自分
ナイキスニーカー、ウェア どんな困難も諦めずに乗り越える自分
レッドブルエナジードリンク 限界を超える勇気のある自分
ディズニーテーマパーク、映画 物語の主人公になれる自分
エルメスバッグ、スカーフ 良いものを良いと分かり、次の世代に手渡せる自分
マクドナルドハンバーガー 何も気にせず、思いっきり楽しんでいる自分

顧客の言葉と本当に買っているものは違う

なりたい自分は顧客に聞けばそのまま答えてもらえるものではありません。マクドナルドのサラダの話がよく知られています。「どんなメニューがあったらいいですか」と聞かれると、顧客は健康に良さそうなメニューを挙げます。ところが、その声に応えてサラダを出しても思ったほど売れず、大きく売れたのはボリュームのあるハンバーガーだった、という話です。

顧客の言葉

  1. 「健康的なメニューがあるといい」
  2. 頭で考えた正しい答え

本当に買っているもの

  1. 何も気にせず、思いっきり楽しんでいる自分
  2. 店に入るときになりたい自分
顧客の声の奥にあるものを読む 顧客は嘘をついているわけではありません。頭で考える正しさと、その店でなりたい自分が違うだけです。

顧客の声は言葉の奥で何を求めているかを読み取る材料として聞いてください。言葉を解釈で丸めずにそのまま受け取り、そのうえで「この方は、どんな自分でいたいから、こうおっしゃっているのか」を考えます。

見つけたかどうかは「〇〇だね」と言われて嬉しいかで確かめる

顧客はなりたい自分になれると最初から信じているわけではありません。心の奥に「もしかしたら自分も」という小さな期待を持っているだけです。ブランドの仕事は、触れるものの一つひとつで「やっぱり、なれるかもしれない」と思える証拠を渡していくことです。

見つけた言葉が合っているかは、周りから「〇〇だね」と言われたときに、その顧客が嬉しくなるかで確かめられます。嬉しくなるなら、それがその顧客のなりたい自分です。

顧客の本当の「敵」は思い込み

あわせて、顧客がなりたい自分になれない理由も考えてください。多くの場合、それは顧客の中の思い込みです。Apple が向き合ってきたのも「自分はクリエイティブな人間ではない」という思い込みでした。だから、専門家でなくても直感で使える製品をつくり、店では誰でも試せるようにし、使い方を教わる場まで用意してきました。どれも思い込みをほどくための証拠です。

ブランドエクスペリエンスを取り入れたマーケティング設計の6つの手順

  1. 1選び続けてくださる顧客を1人思い浮かべる平均の姿より、具体的な1人から始める
  2. 2その顧客が買っている「なりたい自分」を一文にする「〇〇だね」と言われて嬉しくなる言葉を探す
  3. 3顧客の「敵」を1つに絞るなりたい自分になれない理由になっている思い込み
  4. 4カスタマージャーニーのタッチポイントを並べる知る前から、使った後まで。自分で顧客になって通ってみる
  5. 5各タッチポイントで話・声・手をそろえる前の接点の「続き」になっているかを確かめる
  6. 6社員が「うちならどうするか」で判断できるようにする決まりごとを増やすより、判断の拠りどころを1つ渡す
顧客1人から始めて社員の判断で終わる 1〜3で「何をそろえるか」を決め、4〜6で「どこで、誰が、どうそろえるか」を決めます。

1. 選び続けてくださる顧客を1人思い浮かべる

他社を選ぶこともできたのに選び続けてくださっている顧客を、1人思い浮かべてください。顧客全体の平均を考えると、誰にでも当てはまる言葉しか出てきません。最初に知ったきっかけ、選んだ決め手、続けている理由を、できれば直接伺ってみてください。

2. その顧客が買っている「なりたい自分」を一文にする

伺った話から、その顧客が手に入れている自分を一文で書きます。「安心できる自分」のような広い言葉で止めず、その顧客らしい具体的な姿まで絞ります。周りから「〇〇だね」と言われたときに、その顧客が嬉しくなる言葉になっていれば合っています。

3. 顧客の「敵」を1つに絞る

その顧客がなりたい自分になれていなかった理由を考えます。「自分には難しい」「今さら遅い」「自分には似合わない」といった思い込みです。敵をいくつも並べると、渡す証拠もばらけて、顧客の中に何も残りません。

4. カスタマージャーニーのタッチポイントを並べる

  1. 知る広告、紹介してくださった方の一言、検索結果
  2. 調べるホームページ、口コミ、SNSの投稿
  3. 尋ねるフォームの入力欄、自動返信のメール、電話の第一声
  4. 比べる打ち合わせの資料、見積書、担当者の話し方
  5. 使う商品そのもの、届いたときの箱、説明書、店の空気
  6. 困る問い合わせへの返事、トラブルのときの対応
  7. 続ける請求書、定期的な連絡、次の提案
触れるものを顧客が通る順に並べる 赤い印の段は会社が見落としやすい接点です。広告やホームページより、問い合わせの返事や困ったときの対応で印象が決まることが少なくありません。

並べるときは実際に顧客になったつもりで、自分で通ってみてください。社内の人が見落としている接点は、たいてい自分で通ってみて初めて見つかります。

5. 各タッチポイントで話・声・手をそろえる

並べた接点の一つひとつが前の接点の続きになっているかを確かめます。途切れ方は3つあります。前の接点と違う話が始まる(話が変わる)。読み手を尊重していたのに、急かしたり責めたりする(声が変わる)。次の一歩の場所が遠く、探さないと見つからない(手が止まる)。一貫性とは、この3つをそろえることです。

自社の流れのどこで途切れているかを確かめたいときは、同じページなのに登録率が5倍以上違った、i-SHOTの広告45本の比較をご覧ください。

6. 社員が「うちならどうするか」で判断できるようにする

どれだけ設計しても、最後に顧客の前に立つのは社員です。決まりごとを増やしても、想定していない場面では役に立ちません。迷ったときに「顧客はどうしたら喜ぶか」ではなく「うちならどうするか」で判断できるようにしてください。顧客を喜ばせる方法は無数にありますが、「うちなら」と考えると、選ぶ道が1つに絞られます。

ブランドエクスペリエンスは12項目の尺度と現場の3つの数字で測る

12項目の尺度で4つの反応の強さを測る

Brakus らの尺度は、4つの反応ごとに3つずつ、計12の文を顧客に示し、どのくらい当てはまるかを答えてもらうものです。たとえば「このブランドは、目や耳などの感覚に強い印象を残す」「このブランドに触れると、いろいろ考えさせられる」といった文です。一部の文は否定の形になっていて、流れで同じ答えを続けないように工夫されています。定期的に聞けば、どの反応が強く、どれが弱いかを、同業他社や以前の自社と比べられます。

ただし、この尺度は反応の強さを測るもので、良し悪しは測れません。強い印象が嫌な記憶である可能性もあるので、次の現場の数字とあわせて見てください。

現場では言葉・人数・選び続けてくださる数を追う

  1. 顧客が使う言葉:口コミやアンケートの自由記述、紹介してくださったときの一言に、なりたい自分にあたる言葉が出てくるか
  2. タッチポイントごとの人数:知る、問い合わせる、比べる、と進むごとに何人残っているか。いちばん減っている接点が線の切れている場所です
  3. 選び続けてくださる数:もう一度買ってくださる方、続けてくださる方、紹介してくださる方の数

満足度の点数だけで測るのは避けてください。顧客が「この会社でなければ」と思ってくださっているかを見てください。

ブランドエクスペリエンスでよくある5つの誤解

誤解1:ロゴやデザインを整えればいい

見た目をそろえるのは大切ですが、それだけではブランドエクスペリエンスになりません。顧客の期待は、見た目の不一致より、話の食い違いや急に変わる言葉づかい、見つからない問い合わせ先で途切れることがほとんどです。

誤解2:満足度が高ければいい

満足は土台です。けれど「良かった」と「この会社でなければ」の間には大きな差があります。

誤解3:すべての顧客に好かれたほうがいい

なりたい自分をはっきりさせることは、それを求めない方には合わないと伝えることでもあります。高級スポーツカーのメーカーは誰にでも乗りやすい車をつくろうとはしません。「うちはこういう車です。欲しい方は来てください」と言い切れるから、押しつけにならずに済みます。

誤解4:特別なイベントや演出を足せばいい

イベントを足すと、その日の印象は強くなります。けれど翌日の電話の応対や請求書がいつもどおりなら、顧客の期待はそこで元に戻ります。足すより、すでにある接点をそろえるほうが効きます。

誤解5:マーケティング部門の仕事だ

広告やホームページは接点のほんの一部です。問い合わせへの返事、見積書、納品、困ったときの対応の多くは、マーケティング部門の外で起きています。

ブランドエクスペリエンスは経営者が率いる仕事

顧客が感じる「らしさ」をどの接点でもそろえるには、会社のすべての部門が同じ方向を向いている必要があります。

  • つくる人は「うちらしい品質」を守る
  • 売る人は「うちらしい売り方」をする
  • 支える人は「うちらしい対応」をする
  • 人を迎える人は「うちらしい方」をお迎えする

部門ごとの工夫に任せていると、少しずつずれていきます。どの部門にも通じる判断の拠りどころを決め、会社の中に置けるのは経営者だけです。顧客が手に入れるなりたい自分を会社の判断の基準にし、社員が「うちならどうするか」で動ける組織をつくる。i-SHOT はこれをブランドエクスペリエンス経営と呼んでいます。その組織のつくり方は、3か月で判断の基準を現場に組み込む進め方でご覧ください。

まとめ

  1. ブランドエクスペリエンスとは、ブランドに触れたときに顧客の中に生まれる感覚・感情・思考・行動のこと
  2. CXが満足をそろえるのに対し、ブランドエクスペリエンスはらしさをそろえる
  3. 顧客が買っているのは「なりたい自分」
  4. すべてのタッチポイントで話・声・手をそろえ、社員が「うちならどうするか」で判断できるようにする

まずは選び続けてくださっている顧客を1人思い浮かべて、その方が買っている「なりたい自分」を一文で書いてみてください。