ブランドエクスペリエンス経営とは
社長の魂を会社に宿し、社長がいなくても「うちらしい判断」ができる組織をつくる経営手法。
一般的な「ブランディング」は、ロゴを作ったり、広告を打ったり、企業イメージを良くすることを指す。
ブランドエクスペリエンス経営は違う。
顧客が「〇〇な自分」を手に入れられる体験を設計し、その体験を社員全員が再現できる仕組みをつくること。
つまり、マーケティングの話ではなく、経営の話だ。
「ブランド」の本当の意味
多くの人がブランドを誤解している。
ブランドとは、ロゴでも、知名度でも、高級感でもない。
ブランドとは、顧客が「〇〇な自分」を手に入れられるもの。
ブランドが提供する「〇〇な自分」
| ブランド | 顧客が手に入れる「〇〇な自分」 |
|---|---|
| エルメス | 最高のものを使いこなせる自分 |
| Apple | クリエイティブな自分になれる自分 |
| レッドブル | 限界を超えられる自分 |
| スターバックス | 心が豊かになる自分 |
| パタゴニア | 地球を守る側にいる自分 |
| テスラ | 環境に配慮しながらカッコいい車に乗る自分 |
顧客は「バッグ」を買っているのではない。顧客は「エルメスを持つにふさわしい自分」を買っている。
顧客は「コーヒー」を買っているのではない。顧客は「スターバックスで過ごす時間を持てる自分」を買っている。
この視点がないまま「お客様第一」と言っても、現場は動かない。
ブランドとマーケティングの違い
ブランドとマーケティングは混同されやすいが、根本的に違う。
マーケティングは、主語が企業。
「どうすれば売れるか」「どうすれば選ばれるか」「どうすれば認知されるか」
ブランドは、主語が顧客。
「顧客はどんな自分になれるか」「顧客はどんな体験をするか」「顧客は何を持ち帰るか」
マーケティングは企業視点で市場を攻略する。ブランドは顧客視点で体験を設計する。
ブランドエクスペリエンス経営は、後者を組織全体で実行できるようにする手法だ。
なぜ今、ブランドエクスペリエンス経営なのか
技術力では勝てない時代
かつては「いい商品を作れば売れる」時代だった。今は違う。
| 比較 | 結果 |
|---|---|
| Google vs Apple | 技術力はGoogleが上。でも時価総額は? |
| YouTube vs TikTok | 動画数はYouTubeが上。でもユーザー数の伸びは? |
| Gemini vs ChatGPT | 資金力はGoogleが上。でもユーザー数は? |
| トヨタ vs エルメス | 実用性はトヨタが圧勝。でも時価総額の推移は? |
エルメスのバッグは、生活に必要か?必要ない。でも、時価総額はトヨタを超える瞬間がある。
便利さ、技術力、価格。これらで勝負しても、勝ち続けることはできない。
「〇〇な自分」を提供できる会社だけが、選ばれ続ける。
「お客様第一」が機能しない理由
多くの会社が「お客様第一」を掲げている。朝礼で言う。社内報に書く。壁に貼る。
でも、現場では機能しない。なぜか?
「お客様第一」は判断基準にならないからだ。
例:顧客から値引き要請が来た
「お客様第一」で考えると、どうする?
- 値引きした方がお客様は喜ぶ → 値引きすべき?
- でも値引きすると品質が下がる → 値引きしない方がいい?
- 長期的にはどっちがお客様のためになる?
答えが出ない。
だから現場は迷う。迷うから、社長に電話する。社長の電話が鳴り続ける。
BX経営なら、答えが出る
「エルメスならどうするか」
→ 値引きしない。急がない。希少性と特別扱いがブランドだから。「お待たせすること」自体が価値になる。
「スターバックスならどうするか」
→ 値引きしない。心を豊かにする体験に価値があるから。効率より「心を通わせる瞬間」を優先する。
「うちならどうするか」が明確なら、現場は迷わない。
ブランドエクスペリエンス経営の構造
BX経営は、3つの層で構成される。
【第1層】ブランド憲法(最上位)
会社の「魂」を言語化したもの。すべての判断の最上位に位置する。
| 要素 | 内容 | 例(パタゴニア) |
|---|---|---|
| 哲学 | この会社が信じる真理 | 故郷である地球を救うためにビジネスを営む |
| 原則 | 絶対に守るルール | 環境保全が最優先、利益は手段であり目的ではない |
| 使命 | なぜこの会社は存在するのか | ビジネスを環境危機解決の実行手段とする |
ブランド憲法があれば、社長がいなくても判断できる。
【第2層】BXアーキテクチャ(中間層)
顧客体験を設計する層。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 体験設計 | 顧客に何を感じてほしいか |
| 妥協点設計 | 何を諦めるか(ブランドを守るために捨てるもの) |
| 物語設計 | 顧客はどう変化するか |
妥協点設計が特に重要。ブランドを守るためには、何かを捨てなければならない。
- Amazonは顧客サポートを捨てた。「クレームがあるなら返品して」
- キーエンスは提案力を守るために、営業のしつこさによるクレームを許容している
- エルメスは王族のように接客する代わりに、親しみやすい接客を捨てた
あなたの会社は、何を捨てるか?
【第3層】実行組織(各部門)
各部門が「うちならどうするか」で判断する層。
マニュアルではなく、判断基準を共有する。だから、マニュアルに書いていない状況でも、社員が判断できる。
BX経営企業の成功事例
世界のブランド企業を分析すると、共通する構造がある。
1. パタゴニア(Patagonia)
顧客が手に入れる「〇〇な自分」:地球を守る側にいる自分
現場の判断例:
- 1972年、自社のピトン(登山用具)が岩を破壊していることに気づき、売れ筋商品の製造を中止
- 2011年「このジャケットを買わないで」という広告を出稿
- リペアサービスの充実(新品を売るより修理を推奨)
2. スターバックス(Starbucks)
顧客が手に入れる「〇〇な自分」:心が豊かになる自分
現場の判断例:
- サービスマニュアルが存在しない(バリスタが判断)
- アルバイト含む全従業員に80時間の理念研修を実施
- パートナーの判断で無料ドリンク提供可能
3. エルメス(Hermès)
顧客が手に入れる「〇〇な自分」:エルメスを持つにふさわしい自分、最高のものを使いこなせる自分
現場の判断例:
- 在庫があっても「今日は売らない」判断が店舗で可能
- VIP顧客でも「エルメスらしくない」買い方なら販売拒否
- 修理に数ヶ月かけることを誇りとする
4. Apple
顧客が手に入れる「〇〇な自分」:クリエイティブな自分になれる自分
現場の判断例:
- 製品部門が「Appleらしいか」で機能削除の判断をする
- デザイン部門に製品開発の拒否権がある
- 複雑な機能を追加しない(エンジニアの要望でも)
5. レッドブル(Red Bull)
顧客が手に入れる「〇〇な自分」:限界を超えられる自分
現場の判断例:
- 成層圏からのスカイダイブなど、売上に直結しないイベントに巨額投資
- 値引き販売を全店舗で拒否
- 無名でも限界に挑むアスリートに即座にスポンサー契約
6. テスラ(Tesla)
顧客が手に入れる「〇〇な自分」:環境に配慮しながらカッコいい車に乗る自分
現場の判断例:
- ディーラー制度を採用せず直販(体験コントロールのため)
- 特許を無償公開(競合育成より理念実現)
- 広告を出さない(製品体験こそがブランド)
BX経営企業の5つの共通点
1. 意思決定基準が「人」ではなく「原則」
社長の指示待ちではなく、各部門が「〇〇ならどうするか」で判断する。新人でもベテランでも、同じ基準で判断できる。
2. 顧客の要望を断る権限が現場にある
「お客様は神様」ではなく「ブランド憲法が神様」。値引き要請、納期短縮要請を、現場が断れる。
3. 短期利益より長期ブランド価値
売上機会を意図的に逃す判断ができる。短期的には損をする。でも、長期的にはブランド価値が上がる。
4. 従業員が「自分の会社」として振る舞う
マニュアルがなくても、一貫した体験を提供できる。「うちならどうするか」という判断基準が共有されているから。
5. 創業者がいなくなっても、魂が残る
スティーブ・ジョブズは2011年に死んだ。でも今日も、世界中の誰かがMacを開いて「俺にもできるかもしれない」と思っている。
これがブランドエクスペリエンス経営の本質。社長の魂を、会社に宿す。社長がいなくなっても、顧客に届き続ける。
トップダウン経営とBX経営の違い
「トップダウン経営は古い」と言われる。でも、BX経営はトップダウンだ。ただし、従来のトップダウンとは違う。
| 従来のトップダウン | BX経営 | |
|---|---|---|
| 判断基準 | 社長の指示 | ブランド憲法 |
| 社長不在時 | 判断が止まる | 各自が判断できる |
| 従業員の感情 | 「やらされている」 | 「ブランドの一部である」 |
| 持続性 | 社長が死んだら終わる | 社長が死んでも続く |
| 採用 | 社長の好み | ブランドへの共感 |
BX経営は「社長の魂によるトップダウン」。
社長の人格ではなく、社長の魂(ブランド憲法)が組織を動かす。だから、ワンマン経営のデメリット(社長依存、採用困難、社員のモチベーション低下)が起きない。
BX経営を導入すると何が変わるか
現場の変化
- 従業員がクレームや意見をもらっても迷わなくなる
- 従業員が貴社サービスに誇りを持ち、自発的に動くようになる
- 顧客がファン化し、継続利用・単価UPの提案がしやすくなる
- 「社長、これでいいですか?」が「社長、こうしました」に変わる
経営へのインパクト
- 採用ハードルが下がる
- 会社の方針に共感した人材の応募が増える
- 従業員の結束力が強くなる
- 広告宣伝費の削減につながる
- 価格競争に巻き込まれなくなる
社長の変化
- 電話が減る
- 週1日の自由時間が生まれる
- 会社から離れても、増収増益が続く
- 「俺がいなくても大丈夫」という安堵が生まれる
BX経営 90日導入の流れ
1ヶ月目:ブランド原石の発掘
顧客体験を通じて、貴社の「らしさ」を発掘する。
- なぜ競合ではなく貴社が選ばれているのか
- 顧客は貴社から何を持ち帰っているのか
- 貴社でしか届けられないものは何か
これを言語化し、ブランド憲法の土台を作る。
2ヶ月目:時間効率化
社長の時間をブランドに基づいて整理する。
- ブランドにとって重要なこと
- 不要なこと
- まとめてできること
- 人に委任できること
多くの方がこの1ヶ月で週1日分の余裕を手に入れる。
3ヶ月目:組織への実装
言語化したブランドを、組織に実装する。
- クレド(信条)の作成
- 社長代理AIの構築
- 判断基準の共有
- 週次報告の仕組み化
よくある質問
Q. BX経営と普通のブランディングの違いは?
普通のブランディングは、ロゴやWebサイト、広告などの「見た目」を整えること。BX経営は、社員の「判断基準」を整えること。ブランディングは外向き、BX経営は内向き。BX経営ができていれば、ブランディングは自然についてくる。
Q. 中小企業でも導入できる?
できる。むしろ、中小企業の方が導入しやすい。大企業は部門が多く、調整に時間がかかる。中小企業は社長の意思決定で動ける。90日で導入できる。
Q. 導入にどれくらい時間がかかる?
90日が目安。1ヶ月目でブランド原石を発掘し、2ヶ月目で時間を整理し、3ヶ月目で組織に実装する。
Q. 社長が言語化するのが苦手でも大丈夫?
大丈夫。ブランド原石は、社長の頭の中にすでにある。ただ、言葉になっていないだけ。ヒアリングを通じて、社長の頭の中にあるものを引き出し、言語化する。
まとめ
ブランドエクスペリエンス経営とは、社長の魂を会社に宿し、社長がいなくても「うちらしい判断」ができる組織をつくる経営手法。
ポイントは3つ。
- ブランドとは「〇〇な自分」を届けること。ロゴでも知名度でもない
- 「お客様第一」では現場は動かない。「うちならどうするか」が必要
- 社長の魂によるトップダウン。社長がいなくても、魂は残る
スティーブ・ジョブズが死んでも、Appleは「クリエイティブな自分になれる希望」を届け続けている。
100年先、社長がいなくなっても、顧客に届き続ける会社をつくる。それがブランドエクスペリエンス経営だ。