管理職が育たない原因は、本人の力不足に見えて、会社から「役割」「判断の基準」「部下を見る時間」の3つが渡っていないことにある場合が多くあります。管理職にしたのに部下の相談は結局社長に来る。研修に出しても、翌日には元の現場の仕事に戻っている。そんなとき、本人を替える前、研修を足す前に確かめてほしいことがあります。
この記事では、管理職が育たない3つの原因と、原因が本人にあるのか会社にあるのかを見分ける5つの問いを紹介します。そのうえで、研修で身につくことと社長にしか渡せないことを分け、会社側・本人側それぞれの手の打ち方をお伝えします。上場企業の課長を対象にした調査や、Googleが自社の管理職を調べた結果も交えます。
管理職が育たない3つの原因
管理職が育たないとき、多くの会社で次の3つのどれかが起きています。どれも本人がいくら頑張っても埋まらない原因です。それぞれに社長が今日確かめられる問いを添えます。
管理職が現場の仕事で手一杯になっている
産業能率大学総合研究所の調査では、上場企業の課長の94.9%が、自分は「プレイングマネジャー」だと答えました。現場の仕事が自分の仕事の4〜5割を占める課長が、いちばん多くなっています(産業能率大学総合研究所「第7回 上場企業の課長に関する実態調査」。2023年7月、従業員300人以上の上場企業の課長809人。数値は同研究所の解説記事に掲載の報告書図表から)。人数に余裕のある大企業でもこの割合です。社員の少ない会社では、管理職が現場から離れる余裕はさらにありません。
中小企業白書2025年版でも、人材育成の問題点として最も多かったのは「育成に充てる時間的余裕がない」(37.8%)と「指導する人材が足りない」(37.5%)でした。
厚生労働省の令和7年度の能力開発基本調査でも、人材育成に問題があるという事業所が80.1%あり、その59.5%が「指導する人材が不足している」と答えています(厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」調査結果の概要)。教える人が足りないから管理職を育てたいのに、その管理職には教える時間がありません。
社長が確かめる問い:管理職が部下のために使っている時間は、週に何時間ありますか。
判断の基準を社長から渡されていない
同じ課長調査で、「仕事を進める(止める)うえでの判断の基準を、部下に明確に示している」に当てはまると答えた課長は43.2%でした。部下を育てる力が自分に備わっていると答えた課長も、37.8%にとどまります。
判断の基準は本来、会社が管理職に渡すものです。社長が「うちはこういうときにこう決める」を言葉にして渡していなければ、管理職は部下に示しようがありません。部下は迷うたびに、確かな答えを持っている社長のところへ聞きに来ます。
社長が確かめる問い:迷ったときに使う会社の判断の基準を、管理職は一言で言えますか。
社長が管理職を飛び越して部下に指示を出している
3つ目は社長の側で起きている原因です。現場で問題を見つけた社長が部下に直接指示を出せば、その場は早く片づきます。ただ、部下は「結局、社長に聞けばいい」と覚え、管理職の判断は使われなくなります。社長が熱心に引っ張る会社ほど、社長の指示を待つ社員が増え、管理職の出番がなくなります。
中小企業白書2025年版の第2-1-65図でも、社内の意思疎通が円滑でない関係として「部署内の管理職と非管理職」(36.3%)、「経営陣と管理職」(28.6%)が挙がっています。
社長が確かめる問い:この1か月で、管理職を通さずに部下へ直接指示を出したことは何回ありますか。
本人の問題か会社の問題かを見分ける5つの問い
3つの原因はどれも会社の側にあります。とはいえ、管理職本人に原因がある場合もあります。次の5つの問いに「はい」か「いいえ」で答えてください。
| # | 問い | 「いいえ」なら |
|---|---|---|
| 1 | 管理職に「お願いすること」と「もうしなくていいこと」を、紙に書いて渡しましたか | 会社側(役割) |
| 2 | 迷ったときに使う判断の基準を、管理職が一言で言えますか | 会社側(判断の基準) |
| 3 | 管理職が部下のために使う時間を、週に何時間と決めましたか | 会社側(時間) |
| 4 | 部下への指示を、この1か月すべて管理職を通して出しましたか | 会社側(社長の関わり方) |
| 5 | 1〜4をそろえた別の管理職やリーダーは、社内で育っていますか | 会社側の仕組みを見直す |
1〜4に「いいえ」が1つでもあれば、まず会社側を直します。会社側の原因が残ったまま管理職を替えても、次の人が同じところでつまずきます。1〜4がすべて「はい」で、5も「はい」、つまり同じ条件で育っている人がいるのに、その人だけが育たない。そのときは本人側の原因を考え、管理職の選び直しと戻れる道の用意に進みます。
勝手に育つ優秀な人も育つ場にいたから育っている
「できる人は放っておいても育つ。育たないのは本人の素質だ」と感じる社長もいると思います。ただ、勝手に育ったように見える人も、育つ場にいたから育っています。任せてもらえる仕事があり、迷ったときに頼れる基準があり、困ったときに相談できる上司がいた。問い5で「同じ条件で育っている人がいるか」を確かめるのもそのためです。管理職と社長の仕事は、その場を一部の人の運に任せず、誰にでも用意することです。
研修で身につくことと社長にしか渡せないこと
管理職が育たないとき、まず研修を考える社長は多いと思います。研修は役に立ちます。ただ、研修で身につくことと、研修では身につかず社長にしか渡せないことがあります。
| 研修やeラーニングで身につくこと | 社長にしか渡せないこと |
|---|---|
| 部下の話の聞き方、面談の進め方 | この会社で管理職にお願いする役割 |
| 目標の立て方、評価のつけ方 | 迷ったときに使う、この会社の判断の基準 |
| 会議の進め方、数字の読み方 | 部下を見るために使っていい時間 |
左の列はどの会社の管理職にも共通する技術です。右の列は会社ごとに違い、社長が決めない限り誰も決められません。研修会社の講師はあなたの会社のお客様が何を喜んでくださるかを知らないからです。
研修は本人が受けたいと思ってから効く
私は、研修やeラーニングは本人が自分から受けたいと思う状況を作ってからでないと意味がないと考えています。給料を上げるため、昇格の条件だからと仕方なく受ける研修は、終わった翌日には忘れられます。
研究でも参加の仕方で研修の効き方が変わることが分かっています。リーダーシップ研修などに参加した8社311人を調べた研究では、自分から進んで参加した度合いが高い人ほど、学んだことを職場で使おうとする意欲が高く、実際に使っていました(Salamon ら, 2021, Human Resource Development Quarterly)。研修への意欲について20年分の研究をまとめた分析でも、学ぶ意欲は、もともとの頭の良さとは別に、研修でどれだけ身につき職場で使えるかを左右していました(Colquitt, LePine & Noe, 2000, Journal of Applied Psychology)。
ただし、選ばせ方には気をつけてください。207人を3つの組に分けた実験では、受けたい研修を選ばせて、その希望どおりの研修を受けた人は最も意欲が高くなりました。一方、選ばせたのに希望と違う研修を受けさせた人は、最初から選ばせなかった人よりも意欲が低く、学んだことも少なかったのです(Baldwin, Magjuka & Loher, 1991, Personnel Psychology。いずれも当社が言葉に置き換えて紹介しています)。本人に選ばせるなら、選んだものを通すことが前提です。
仕方なく受けた研修は部下へのやり方の押し付けになる
研修にはもう一つ、見落とされやすい悪い影響があります。研修で「正しい管理職のやり方」を習った管理職が、そのやり方を部下に当てはめようとすることです。「研修でこう習ったから、面談はこう進める」「この型で目標を書いて」。部下の仕事の場面を見ずに、習った型を求めるようになります。
本人が自分の困りごとから選んだ研修なら、学んだことを自分の現場に合わせて使います。仕方なく受けた研修だと、型をそのまま持ち帰りがちです。部下から見ると、上司が研修で習ってきたことをやらされているだけになり、かえって管理職への信頼が下がります。
受けたいと思う状況は困った場面からつくる
では、受けたいと思う状況はどうつくればいいのでしょうか。私は研修を先に用意するのではなく、管理職が実際に困った場面が出てから選んでもらう順番をお勧めしています。
- 役割・判断の基準・時間を渡し、管理職が部下と向き合う日々を始めてもらう
- 週1回の社長との振り返りで「部下の話を最後まで聞けなかった」「評価の伝え方に迷った」など、本人の困りごとが出てくるのを待つ
- 困りごとに合う研修や本をいくつか本人に選んでもらい、選んだものを通す
- 研修を昇格や給料の条件にしない
会社側の原因は社長が今週から直せる
5つの問いで会社側の原因が見つかったら、次の4つを社長が渡します。どれも研修費はかかりません。
- 1役割を紙1枚で渡す「お願いすること」と「もうしなくていいこと」を書く
- 2判断の基準を渡すお客様に喜ばれた場面から「うちならどうするか」の問いをつくる
- 3部下を見る時間をつくる管理職の担当の一部をほかの人に移し、週に何時間と決める
- 4相談を管理職に戻して一緒に振り返る部下からの相談は管理職に戻し、週1回30分、管理職の判断を社長と見直す
判断の基準のつくり方は、社長に聞かずに社員が動く判断の基準の渡し方で詳しく紹介しています。
仕組みで直すか人で育てるかは社長の考えで選ぶ
4つの渡し方には大きく2つの道があります。
| 道 | やり方 |
|---|---|
| 仕組みで直す | 役割の紙・判断の基準・部下を見る時間・週1回の振り返りを、会社の決まりにする。誰が管理職になっても同じものが渡る |
| 人で育てる | 社長が管理職一人ひとりと向き合い、面談や同行の中で役割と基準を伝えていく。その人に合わせて渡し方を変えられる |
私自身は仕組みで直すほうを選ぶことが多いです。社長の時間や相性に左右されず、管理職が替わっても続くからです。ただ、社員一人ひとりと向き合うことを大切にしてきた社長なら、人で育てる道のほうが会社に合います。大事なのはどちらの道を選ぶかより、役割・判断の基準・時間・振り返りの4つがどちらの道でも抜けずに渡ることです。
お客様の場面から社員の判断の基準をつくり、管理職から現場へ根づかせるまでの進め方を、セミナー動画にまとめています。スキマ時間でご覧いただけます。
セミナー動画を見る管理職の仕事は部下が仕事に集中できる環境を整えること
役割の紙に何を書けばいいか迷ったら、私はこう考えています。管理職の仕事は部下の力を引き上げることです。そのために管理職は、部下を教え込むより、部下が目の前の仕事に集中できる配置と環境を整えます。
高校野球のマネージャーを思い浮かべてください。マネージャーは選手の代わりに打席に立ちません。道具をそろえ、練習の段取りを組み、選手が野球だけに集中できるようにします。会社の管理職も同じで、部下が迷う場面で使える基準を渡し、必要な道具と時間をそろえ、余計な心配を引き受けます。
管理職の1週間の仕事の例
「管理職の仕事が具体的に分からない」という声は管理職本人からもよく聞きます。役割を言葉で渡すだけでなく、1週間の動き方の例を一緒に渡すと伝わります。
| いつ | 管理職がすること |
|---|---|
| 週のはじめ | 部下一人ひとりに今週の仕事と困っていることを聞く |
| 週の途中 | 迷っている部下と一緒に「お客様から見てどうか」を考える。足りない道具や時間を見つけてそろえる |
| 週の終わり | 社長と30分、今週自分がした判断を振り返る |
| 毎日 | 自分の現場の仕事は決めた時間の中で終える |
プレイヤーのときと入れ替わる3つの仕事
管理職になったばかりの人は、プレイヤーとして評価されてきたやり方を続けがちです。役割を渡すときは、何が入れ替わるのかを具体的に伝えてください。
自分がお客様の前で成果を出す
部下がお客様の前で成果を出せる場面を用意する
迷ったら自分で答えを出す
部下に「うちならどうするか」と問い返し、部下に決めてもらう
自分の数字を追う
部下が仕事を進めるのに足りない道具や時間を見つけてそろえる
Googleが調べた良い管理職の1番目の行動はコーチ
Googleは社内の管理職の評価や部下へのアンケートなど1万件以上のデータを分析し、良い管理職に共通する10の行動をまとめました。1番目は「良いコーチである」、2番目は「細かく口出しせずにチームに任せる」です。専門知識は8番目にあります(Google re:Work「Following the data」。当社が日本語に訳しています)。
職場を対象にした72の研究、約3万3千人分をまとめた分析では、部下の考えに関心を持ち、選ぶ余地を渡し、自分から動くことを後押しする上司のもとで働く人ほど、辞めたい気持ちが弱く、仕事の成果も高いという関係が見られました(Slemp, Kern, Patrick & Ryan, 2018, Motivation and Emotion。同時に起きている関係を見た研究で、どちらが原因かまでは示していません。当社が言葉に置き換えて紹介しています)。
社員10人ほどなら迷ったときに相談する役を決める
社員が10人ほどなら、肩書きとしての管理職は要らないかもしれません。ただ、社長が全員の判断を受けていると、社長が現場を離れられません。2〜3人のまとまりごとに「迷ったら、まずこの人と考える」という役を決めるだけでも、社長に集まる判断は減ります。この記事の役割・判断の基準・時間は、その役の人にもそのまま渡せます。
社長が1枚で作る管理職の育成計画
4つの渡し方をいつ何をするかで1枚の表に並べました。1〜3は最初の1か月で渡し、振り返りと見直しはそのあとも続けます。
- 1週目役割の紙を渡す。「お願いすること」と「もうしなくていいこと」を本人と一緒に読み合わせる
- 2〜4週最近お客様に喜ばれた場面を3つ挙げ、社員が何を大事にしたかを1行にして判断の基準にする
- 1か月目管理職の担当の一部をほかの人に移し、部下を見る時間を週に何時間と決める
- 毎週30分の振り返り。社長は答えを言わずに問い返す
- 3か月ごと部下に「上司に助けてもらえた場面は?」と聞き、役割の紙を書き直す
毎週の振り返りで社長が答えを言うと、管理職は次から社長の答えを当てにいくようになります。答えの代わりに次のように問い返してください。
- 「お客様から見て、どうだったと思う?」
- 「うちの判断の基準に照らすと、どれを選ぶ?」
- 「部下は、そのとき何に困っていた?」
Googleでも、部下から管理職への声を聞いています。管理職について部下から年1回評価を集め、管理職本人の振り返りに使っています(Google re:Work「Developing great managers at Google」)。社員の少ない会社なら、評価の形にしなくても社長が直接聞くだけで十分です。
プレイングマネージャーのまま育てる時間の分け方
社員の少ない会社では、管理職が現場の仕事を持つのは自然なことです。プレイングマネージャーをやめさせる必要はありません。必要なのは、社長が現場の仕事と部下のための仕事の割合を決めておくことです。
たとえば「現場の仕事7割、部下のため3割」から始め、部下が育つにつれて部下のための時間を増やしていきます。割合は一例で、会社の状況に合わせて決めてください。割合を決めずに役割だけ渡すと、目の前のお客様の仕事が優先され、部下の時間はいつも後回しになります。決めた割合を守れるように、管理職の担当を減らすのは社長の仕事です。
本人側の原因なら選び直しと戻れる道を用意する
5つの問いで会社側をそろえても育たない場合は、管理職という役割がその人に合っていない可能性があります。管理職を選び直すときは、売上の成績より次の点をふだんの仕事で確かめてください。
| 見るところ | ふだんの仕事で確かめる方法 |
|---|---|
| 人の話を聞ける | 後輩に相談されたとき、答えを言う前に相手の考えを聞いているか |
| 任せられる | 後輩に仕事を渡したあと、途中で取り上げずに最後までやらせているか |
| お客様の場面で | 迷ったとき「お客様から見てどうか」を口にしているか |
| 基準を曲げない | 忙しいときや売上が足りないときも、判断の基準に沿って決めているか |
管理職をやりたい人自体も減っています。パーソル総合研究所の調査では、今の会社で管理職になりたいと答えた一般社員などは2026年に15.7%でした。2021年の24.0%から下がり続けています(パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」。全国の15〜69歳の働く人10,000人)。
だからこそ、合わなかったときに戻れる道を用意しておくことが大切です。星野リゾートは、管理職から現場の仕事に戻ることを「降格とは呼びません」としています(星野リゾート 採用サイト「よくある質問」)。役職も年2回の「立候補プレゼン大会」で自分から手を挙げた社員が担います(同「キャリアパス制度」)。「やってみて合わなければ、現場の仕事に戻っていい。それは失敗ではない」と社長が先に伝えておけば、本人の誇りを傷つけずに話し合えますし、次に手を挙げる人も出てきます。
任せたあとに社長が何を守り、どこまで口を出すかは、任せる前に社員に渡しておく問いと任せたあとの社長の仕事をご覧ください。