はじめての泣き声が、響いた。白い、病院の一室で。
——あなたの一生は、頑丈な建物の中から、始まった。
学校の教室で、友だちができ、はじめての夢を持った。
廊下を走り、階段を、駆け上がった。あの、何年か。
職場で、汗をかき、失敗して、それでも、誰かの役に立った。
あなたの毎日が、この社会の、どこかを、回していた。
あの棟の、あの部屋。眠り、また朝を迎え、家族と、暮らした。
なんでもない一日を、何千回も、重ねてきた。
病院の廊下で、大切な人の報せを、待った。
そのどれもが——崩れない建物の、中で。
その建物は、びくとも、しなかった。
何十年もの、ただの一日一日を、守り抜いて。
派手な何かじゃない。一つずつ、積み上げられた、地味なコンクリートのブロック。
街をつくる、いちばん小さな単位。
何十年先、そこで生きる誰かの、一生を思って。
ひとつも、手を、抜かずに。
崩れない場所の上でしか、人は、安心して生きられない。
それは、当たり前、じゃなかった。
壁が守っていたのは、建物じゃない。
あなたの、一生だ。
いちばん頑丈なものが、いちばん静かに、あなたの一生を、抱えていた。
生まれ、学び、働き、帰り、また、誰かを見送る。
——長く残るものを建てるとは、次の一生を、迎える支度をすることだ。